安藤 香織
社会心理学を志したきっかけ
大学に入る時、社会心理学などということはまったく考えていませんでした。高校生の頃、実はちょっとオタッキーで、海外SFやミステリーが大好きだったのです。ですから、高校生の頃は、SFやミステリーの翻訳家になりたいと考えていました。でも、大学の教養の授業で受けた社会心理学の授業がとてもおもしろかったのがきっかけで、心理学に興味を持ち始めました。SF好きで宇宙に興味があったのですが、一人の人の心というのは宇宙に匹敵するぐらい広いのではないか、そしてその人間がたくさん集まっているこの社会というのは、宇宙以上に深淵なのではないかと考えたのです。
心理学のおもしろさ
日常の人の行動で不思議だな、と思うことは色々あると思います。たとえばどうして行列があると並びたくなるのだろう、とか、どうしてエコがよいことだと思っていても車を使ってしまうのだろう、どうして人は偏見を持ってしまうのだろう、など。そんなことを実際に実験や調査で調べてみることができるのが心理学のおもしろさだなと思います。
ディベート
かといって大学生の頃熱心に心理学を勉強していたかというとそうでもなく、学部生の頃は心理学の勉強よりもディベートを熱心にしていました。まるでディべート学部に入学したようなものです。ディベートとは、肯定側と否定側に分かれて1つの命題について議論を行うゲームです。ESSでしたので、英語でディベートをしていました。
私は小さい頃から体育は苦手で、勝ち負けのあるゲームは好きでなかったのですが、ディベートをやってみて、初めて自分はものすごく負けず嫌いであることに気づきました。そして負けるのがいやなので、とても熱心にディベートの練習をしていたわけです。
ESSのディベートでは、全国各地で大会があり、シーズン中は毎週末のようにどこかに出かけていました。名古屋から東京に3週連続で行ったこともあります。今考えると、よくそんなに資金が持ったと思うし、よくそれだけの体力があったものだと思います。ディベーターというのは、学生なのにスーツを着て、ものすごく重そうなかばんを抱えて歩いている人種です。
ディベートについては、「実践!アカデミック・ディベート」(安藤・田所,2002)に紹介しています。
ケント大学への留学
大学院の修士課程の時に、イギリスのケント大学に留学しました。ケント大学はカンタベリーという小さな町にあります。カンタベリーの町の真ん中には、カンタベリー大聖堂という有名な建築物があります。大学は丘の上にあり、そこから眺めるカンタベリー大聖堂が、そこだけ異空間のようでとても好きでした。
イギリスには、ヨーロッパ各地や香港などからの留学生がたくさんいます。ケント大学は、全体での留学生比率は当時3割でした。大学の寮には、いろんな国からの学生がいて、よく共同のキッチン兼ダイニングに集まってはいろんな話をしました。その時に気づいたのが、アジアからの留学生とヨーロッパからの留学生は、それぞれつきあい方が違うのではないかということです。例えばパーティのやり方なども違って、イギリス人学生主催のパーティでは、招待されていなくてもパーティの日は好きな時に行って参加することができ、大勢が出たり入ったりしています。そんなところから、段々と文化による人間関係の違いに興味を持つようになりました。でも、その時に感じたことは、文化による違いもあるけれど、それを超えて共通して理解できることというのはたくさんあるんだなということです。たとえば、恋愛や就職の悩みなどは日本の学生もヨーロッパの学生も同じだと思います。
子どものこと
もともと私は、子ども好きというわけではありません。自分に子どもができるまではあまり子育て問題に関心もなかったし、どちらかというと周りで子どもがばたばたしているのは苦手なほうです。でも、自分に子どもができてから、ちょっと子ども目線になったかなと思います。
それから、子どもが産まれてから、理不尽なことにぶつかることも、多々ありました。子育てをめぐる問題に、以前は関心がなかったのですが、日本は子育てしにくい社会だなと感じることが増え、これは大きな問題なのではないかと考えています。少子化、と言われて久しいですが、とても政府が本腰あげて取り組んでいるようには思えません。むしろ、経済対策の方が先で、子どもや子育てのことは、一番後回しになっているような気がします。でも、子どもが産まれなければ、日本の社会は尻すぼみになっていくということ、もっと皆が考えてほしいと思います。
子育ての体験については、「ワーキングママの本音」(ナカニシヤ出版)でも書いています。
コーラス
もともと歌が好きというわけではないのですが、趣味は何かな、と考えると今は奈良の音声館でコーラスをやっています。最初子どもにつきあいのつもりで始めたコーラスですが、だんだんと自分もはまっているかもしれません。・・・と言っても、音痴がなおったわけではないですが。声を出すことが気持ちいいな、と思えるようになってきました。息の出し方、ということは健康とも深く関わっています。
この音声館のコーラスでは、2012年から、東日本大震災支援のチャリティコンサートを行っています。それが縁で、飯舘村の人たちと交流する機会を持つことができました。2015年、2016年の夏にはコーラスのメンバーで飯舘村を訪問しました。チャリティコンサートはいつまで続けられるかわかりませんが、飯舘村との交流は続けられたらいいなと思っています。