研究概要
本研究では、大学生の環境配慮行動について、日本、ドイツ、アメリカ、中国の4カ国において質問紙調査を行った。本研究は平成23-26年度文部科学省科学研究費(若手B23700859)の補助を受けている。これまで本研究代表者は日米、日独で環境配慮行動の比較調査を行ってきたため(Ando et al., 2010; Ando et al., 2007)、同時に数カ国で調査を行って統合的な知見を得るということが本研究の目的の1つである。また今回は新たに中国を調査対象として加えている。中国は世界の中でもCO2排出量が年々増加している国であり、環境対策を考える上で中国の動向は無視できないものである。その中国で将来を担う大学生の環境意識を探るということも目的の1つとしている。
また平成20-22年度には小学4-6年生とその親を対象とした、環境配慮の規範・動の伝播の経年変化を比較する研究を行ったが親の行動からの影響が、徐々に小さくなる傾向が見られた。このことから、年齢が上がるに連つれ、親からの影響が小さくなり、同年代の友人からの影響が強くなることが考えられる。したがって本研究では、大学生を対象とし、他者からの規範が環境配慮行動に及ぼす影響を検討する。
本研究では特に他者の実行度認知(記述的規範)、地域への帰属意識、環境コミュニケーションの影響に着目して分析する予定である。記述的規範が、環境配慮行動に大きな影響を及ぼすことが先行研究では指摘されている(Schultz et al., 2007; Nolan et al., 2008)。本研究では記述的規範として大学の友人の実行度、地域の人の実行度について尋ねた。Ando et al. (2007)の日米の環境配慮行動の規定因の比較では、国全体での実行度について尋ねたが、本研究ではより身近な準拠集団である同じ大学の学生、及びより広い範囲の集団として地域での実行度認知を対象とした。同じ大学の学生の実行度認知の方が自身の環境配慮行動への影響が強いと予測される。
地域への帰属意識に関しては、社会的アイデンティティ理論(Tajfel & Turner, 1979)より、集団への帰属意識が高い個人は、集団に対してより協力行動を取りやすいと予測できる。それは環境配慮行動についても当てはまるのか、検討する予定である。また環境コミュニケーションについて、どのような情報源からのコミュニケーションが効果が高いのかを検討する。大学の友人や家族、地域の広報等のローカル・メディア、マス・メディアとの情報接触についてそれぞれ尋ねた。マス・メディアからの情報は一方向的で不特定多数を対象としているために、その効果は限定的であることが指摘されている(Constanzo et al., 1986; Stern, 1999)。そのため、友人や家族など身近な人とのコミュニケーションの方が影響が強いと予測される。
本研究は2012年春に行っているが、日本では2011年3月に東日本大震災があり、原発事故の影響により電力不足が各地で生じたため、全国で節電のキャンペーンが行われていた。2012年夏においても、電力の供給が逼迫する見通しであった。本研究では日本では北海道、東北、関東、中部、関西の5地域で調査を行ったが、地域ごとの比較、及び東日本大震災後の節電行動の規定因について検討することも目的としている。ただし、本報告書においては、国際比較の結果について主に報告する。
本研究の実施にあたっては、国内外での共同研究者からの協力を得た。ドイツでの調査にあたっては、マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルグのGundula Hubner, アメリカではカリフォルニア州立大学のWesley Schultz, 中国では大連外国語大学の李東輝より協力を得てそれぞれの大学で調査を行った。日本では北海道大学の大沼進、福島大学の市井和仁、群馬大学の柿本敏克、法政大学の菊澤佐江子、愛知教育大学の杉浦淳吉(現在慶應義塾大学)、関西学院大学の野波寛の各氏の協力を得て調査を実施した。ここに記して感謝したい。